糖尿病・内分泌グループ
旭川医科大学病院糖尿病・内分泌内科では糖尿病や脂質異常症などの代謝疾患、肥満症、内分泌疾患に対する専門診療を行っています。日本糖尿病学会専門医・指導医、内分泌専門医・指導医、肥満症専門医、糖尿病認定看護師をはじめとする専門診療スタッフが連携し、患者さんそれぞれの生活に寄り添いながら、最新のエビデンスに基づいた医療の提供を目指しております。
糖尿病や肥満症に関しましては、動脈硬化性疾患など合併症の予防のため、血糖や体重だけでなく、血圧や脂質、他臓器疾患など総合的な評価及び治療を心がけております。近年、糖尿病や肥満症に対する新規薬剤や検査用のデバイスが多数登場しており、より一層診療の幅が広がっております。内分泌疾患は、甲状腺疾患や副腎疾患、視床下部・下垂体疾患など内分泌疾患全般の診療を行っております。内分泌器官は全身に分布しているため、当院の様々な診療科と連携しながら診断及び治療を行っております。
また、今後の糖尿病・内分泌領域の発展に向けて、糖尿病合併症や治療薬などに関する基礎研究や臨床研究にも積極的に取り組んでおります。
糖尿病
食事などで体の中に取り込まれた炭水化物は、消化されてブドウ糖となり、小腸から血液中に吸収されて、体を動かすエネルギーとして使われたり、余った分は肝臓や脂肪細胞などに蓄えられたりします。このブドウ糖を血液中から体の細胞に取り込む際に必要なホルモンとしてインスリンがあり、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞と呼ばれる場所で生成・分泌されます。血糖値 (血液中のブドウ糖濃度) に応じてインスリンの分泌量が変化し、インスリン作用が調整されることで血糖値は一定に保たれています。糖尿病はこのインスリンの作用が何らかの原因で不足することにより、慢性的な高血糖が持続することを主な病態とした代謝疾患のことを指します。
1型糖尿病は主には自己免疫学的な機序により膵β細胞が破壊され、必要な量のインスリン分泌ができなくなることで発症する糖尿病です。原因は明らかになっていない部分も多いですが、遺伝因子や感染症などの環境因子が関わると言われています。また、近年は悪性腫瘍の治療薬として使用されている、免疫チェックポイント阻害薬による副作用として発症する1型糖尿病も増加してきています。
2型糖尿病はインスリンによってブドウ糖を細胞に取り込む作用が低下していることと、膵β細胞からのインスリン分泌が不十分であることの両方が原因となって発症します。原因としては遺伝因子に加え、生活習慣などの外部因子が関わるとされています。
そのほか、糖尿病には膵炎や膵腫瘍など膵臓の疾患により発症する糖尿病や、ステロイドなど薬剤性の糖尿病、遺伝子異常による糖尿病、妊娠糖尿病 (診断基準は他の糖尿病と異なります) などがあります。
糖尿病により慢性的な高血糖が持続することで、神経障害、網膜症、腎症といった糖尿病細小血管合併症と呼ばれる合併症、虚血性心疾患や脳血管障害、末梢動脈疾患などの動脈硬化性疾患が発症することがあります。また急激な血糖値の上昇や、著しい高血糖により、高度な脱水やケトアシドーシスと呼ばれる状態、昏睡状態へと至る場合もあります。これらの合併症を予防するために、血糖値を目標の範囲内で維持する必要があり、また合わせて体重や血圧、脂質などの管理も行うことが重要です。糖尿病の治療は食事・運動療法を基本とし、インスリンや様々な作用機序をもつインスリン以外の薬剤 (内服薬、注射製剤) を使用して行います。
近年次々と新薬が登場し、また既存薬剤でも新たな作用が判明してきており、治療薬選択の幅が広がってきております。また、インスリンを使用している患者さんには、持続グルコースモニタリング (CGM) という血糖測定方法を使用することも増えています。患者さんや医療者が血糖推移を実際にグラフで見ることで、インスリンの用量調整など、治療の質の向上につながっております。
当科では医師、看護師、栄養士、薬剤師、理学療法士など多くの医療スタッフが連携して、食事・運動療法の状況や生活状況を把握し、上記のような日々アップデートされる情報を取り入れながら、患者さんそれぞれの目標達成へ向けて診療を行っております。
肥満症
肥満とはBMI(Body Mass Index:体重kg÷(身長m)2)が25 kg/m2以上の場合であり、それに加えて肥満に起因ないし関連する健康障害を合併する場合に肥満症の診断となります。
肥満に起因、関連する健康障害として、耐糖能障害、脂質異常症、高血圧、冠動脈疾患、脳梗塞、脂肪肝、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、悪性腫瘍、静脈血栓症などがあります。これらの原因の一つは内臓脂肪の蓄積であり、減量により内臓脂肪を減少させ、合併症を改善、予防することが肥満症治療の目標です。
肥満症の中には甲状腺機能低下症やクッシング症候群などの内分泌疾患やグルココルチコイド製剤、抗うつ薬、糖尿病治療薬などの薬剤、遺伝子異常、食行動をつかさどる脳の視床下部の障害などが原因となる場合があり、二次性肥満と呼ばれています。まずは二次性肥満の鑑別を行い、原因を認めた場合はその治療も行いながら、肥満症に対する治療を行います。
治療法としては食事療法、運動療法、また食行動質問票や体重のグラフ化、30回咀嚼法などの行動療法、薬物療法があります。以前は肥満症に使用できる薬剤は1種類のみでしたが、近年肥満症に適応のある薬剤が登場してきており、当科でも適応のある患者さんにはご使用いただいています。
また、BMI 35 kg/m^2以上で健康障害を合併する場合は高度肥満症といわれ、上記治療に加えて胃の大きさを外科的に縮小させる、代謝改善手術が行われる場合もあります。
現在代謝改善手術は当院で行っていませんが、今後入院治療も含め、より多くの肥満症患者さんを治療できるような診療体制の確立を目指しております。
内分泌疾患
内分泌疾患には甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病など)、副甲状腺疾患(原発性副甲状腺機能亢進症など)、副腎疾患(クッシング症候群、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫など)、下垂体疾患(先端巨大症、クッシング病、下垂体前葉機能低下症、中枢性尿崩症など)等様々な疾患があります。
甲状腺ホルモンは体の新陳代謝を促進するはたらきがあります。代表的な疾患としてバセドウ病がありますが、抗TSH受容体抗体という甲状腺を刺激する自己抗体が産生され、甲状腺ホルモンが過剰に合成・分泌されてしまう疾患です。甲状腺ホルモンの過剰により、動悸や手足の震え、多汗、体重減少などの症状が出現します。治療法は薬物治療や、手術治療、放射性物質を甲状腺内に取り込んで甲状腺細胞を破壊するアイソトープ治療があります。
橋本病は甲状腺に炎症が生じることで、甲状腺ホルモンを産生する能力が低下してしまう疾患です。約15%の患者さんで甲状腺機能が低下し、全身のむくみや倦怠感、体重増加、寒がりなどの症状を認めます。甲状腺機能が低下した場合には、内服薬で甲状腺ホルモンを補う治療を行います。
副甲状腺は甲状腺の裏側に分布している通常5mm程度の臓器であり、副甲状腺ホルモンは血液中のカルシウム濃度を上げるはたらきがあります。血液中のカルシウム濃度などによって副甲状腺ホルモンの分泌量は調整されていますが、代表的な疾患である原発性副甲状腺機能亢進症では、副甲状腺に腫瘍などが形成され、カルシウム濃度に関わらず副甲状腺ホルモンが過剰に合成・分泌されてしまいます。カルシウム濃度が高いことにより喉の渇きや便秘、吐き気などの症状が出現し、また尿へのカルシウム排泄が増加することで、尿路結石が生じたり、カルシウム濃度を上げるために骨が破壊され、骨粗しょう症を発症したりします。治療法の第一選択は手術治療ですが、手術が困難である場合は薬物による治療を行うこともあります。
副腎は左右それぞれの腎臓の上部に分布している臓器であり、血圧や血糖などに関与する、複数のホルモンを合成・分泌しています。クッシング症候群はコルチゾールと呼ばれるホルモンが過剰に分泌される疾患です。顔が丸くなる(満月様顔貌)、お腹に脂肪がつく、首から背中が盛り上がる、手足の筋力が低下する、むくむなどの症状を認め、血圧、血糖、中性脂肪、コレステロールの上昇や骨粗しょう症を認めることがあります。
原発性アルドステロン症はアルドステロンという、体内の塩分や水分を調節するホルモンが過剰に分泌される疾患です。血圧の上昇や血液中のカリウム濃度の低下がみられます。
褐色細胞腫はアドレナリンやノルアドレナリンという血圧や脈拍を調整するホルモンが過剰に分泌される疾患です。血圧の上昇に加え、動悸や頭痛、発汗、体重減少などがみられることがあります。
副腎疾患として代表的な上記の3疾患が起こる原因の一つに副腎腫瘍があり、治療法としてはホルモンを過剰に産生している腫瘍を手術で摘出する方法や、手術が困難である場合は薬物でホルモンの産生を抑える治療などがあります。また、副腎腫瘍の約50%は良性かつホルモンを過剰に産生しない非機能腺腫と呼ばれるものであり、CT検査などで偶然見つかることもあります。腫瘍が見つかった際は、血液検査や詳しい画像検査などでホルモン過剰分泌の有無や他疾患の可能性がないか評価を行います。
下垂体は目の奥のほうに分布する、脳の一部分です。下垂体ホルモンには甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモンといった全身の内分泌器官にホルモンの分泌をそれぞれ促すホルモンや、小児期は身体の成長に、成人期は新陳代謝などに関与する成長ホルモン、乳汁の産生・分泌を促進するプロラクチン、腎臓にはたらき尿量を抑制させるバソプレシンなどがあります。副甲状腺や副腎のように、下垂体にも腫瘍を認めた場合、ホルモンを過剰に合成・分泌することがあり、成長ホルモンを過剰に分泌する先端巨大症では手足、鼻、唇、下あごが大きくなり、高血圧や高血糖、脂質異常、また心疾患や悪性腫瘍の合併を認めることがあります。
クッシング病は副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌されることで、副腎が刺激され、コルチゾールも過剰に分泌される疾患です。副腎性のクッシング症候群と同様の症状が認められます。
また、下垂体腫瘍や、嚢胞(お水の袋のようなもの)、下垂体の炎症、生まれつきの下垂体の形成不全などにより、正常な下垂体が機能しなくなり、下垂体ホルモン分泌が低下する場合もあります。中でも重要なのは甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、バソプレシンであり、甲状腺刺激ホルモン低下により、甲状腺ホルモン分泌も低下し、全身のむくみ、倦怠感、体重増加などを認め、重症な場合は低体温や意識障害をきたすこともあります。副腎皮質刺激ホルモンが低下すると、副腎皮質から分泌されるコルチゾールが低下し、倦怠感や腹痛などの症状を認め、血圧や血糖の低下、低ナトリウム血症、重症な場合意識障害をきたします。バソプレシンが低下することで、中枢性尿崩症という疾患を発症し、1日の尿量が5-6Lになってしまうこともあり、生活の質が低下したり、電解質異常をきたしたりします。
先端巨大症やクッシング病、また下垂体腫瘍が大きく周りの神経を圧迫した場合には、手術による下垂体腫瘍の摘出や放射線治療などが行われます。下垂体機能が低下した場合は、内服薬や注射製剤により、低下した下垂体ホルモンを補充する治療を行います。
他にも内分泌器官は性腺、膵臓、消化管など全身に分布しており、腫瘍や薬物などが原因でホルモンの分泌異常をきたすことがあります。また、内分泌疾患でみられる症状や検査所見は様々で、他の病気で認められるものも多くあるため、上記のような症状を認めた際に、内分泌疾患に関しても評価を行うことが重要です。
実際に、様々な症状をもつ患者さんが他の診療科や病院で内分泌疾患を疑われて当科を紹介受診され、薬剤負荷検査や画像検査など、より専門的な検査の結果内分泌疾患の診断となり、適切な治療を受けられています。特殊な薬剤や画像検査などが必要である場合もあるため、内分泌疾患の専門診療が可能な施設は限られており、今後も他院との連携や当院の様々な診療科との連携を継続しながら診療を行っていきます。
参考文献
- 日本糖尿病学会:糖尿病治療ガイド 文光堂. 2024
- 日本肥満学会:肥満症診療ガイドライン ライフサイエンス出版. 2022
- 日本甲状腺学会:バセドウ病の診療ガイドライン. 甲状腺疾患診療ガイドライン 2022
- 日本甲状腺学会:バセドウ病治療ガイドライン 南江堂. 2019
- 田上 哲也ら:甲状腺疾患診療マニュアル改訂第2版. 診断と治療社. 2014
- Bilezikan JP, et al. Evaluation and Management of Primary Hyperparathyroidism: Summary Statement and Guidelines from the Fifth International Workshop. J Bone Miner Res 2022; 37: 2293-2314
- Nieman LK, et al. Treatment of Cushing’s Syndrome: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab 2015; 100: 2807-2831
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- 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班:間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き(平成30年度改訂). 日内分泌学会誌 2019; 95: 1-60