リウマチ・膠原病グループ
旭川医科大学病院リウマチ・膠原病内科は、日本リウマチ学会が認定する専門医教育施設であり、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどのリウマチ・膠原病疾患全般に対する専門診療を行っています。
日本リウマチ学会指導医・専門医、日本リウマチ財団登録医をはじめとする専門診療スタッフが最新のエビデンスやガイドラインに基づいた診療を提供しています。典型的症例はもとより、診断が困難であった症例、合併症などにより治療が困難であった症例などについて、院内他科との連携を含めた総合的診療を展開しています。
関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、皮膚筋炎・多発性筋炎、結節性多発動脈炎、混合性結合組織病、抗リン脂質抗体症候群、シェーグレン症候群、ANCA関連血管炎 (顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症) 、巨細胞性動脈炎、高安動脈炎、ベーチェット病、成人スティル病等、など多くの疾患を診療の対象としています。
近年、膠原病および類縁疾患の治療は、新規の免疫抑制剤・生物学的製剤の登場、適応追加などに伴い新たな局面を迎えています。また、深刻な臓器合併症、感染症など有害事象への対応が著しい進化を遂げています。治療の高度化に対応し、よりよい疾患予後を実現させる専門診療に取り組んでいます。
疾 患
関節リウマチ (RA)
関節リウマチ (RA) は遺伝的素因とさまざまな環境要因の組み合わせにより自己免疫応答が惹起され、関節滑膜において炎症が発生し、慢性化した炎症によって関節の軟骨・骨が破壊される疾患です。
症状は、朝のこわばり、手・足の指や膝・肘などの全身のさまざまな関節の痛みや腫れといった多発性関節炎が多いですが、間質性肺炎や血管炎などの関節以外の臓器合併症を呈する場合もあります。日本では患者数は約80万人と推定されており、男女比は1:3〜1:4と女性に多い疾患です。
以前は治療の選択肢が少なく、疾患のコントロールが難しく、関節変形の進行や、日常生活動作 (ADL) の障害が問題になることがたびたびありましたが、日本では2003年から生物学的製剤 (Biologics, バイオ製剤) が使用できるようになり、病気のコントロールが格段に改善し、RA治療のパラダイムシフトが生じたと言われるようになりました。
抗環状シトルリン化ペプチド抗体 (抗CCP抗体) や関節超音波検査、関節MRIなど関節リウマチの診断方法の進歩もありました。また、早期に関節リウマチを診断して適切に治療する治療推奨やガイドラインも作成され、関節リウマチの基本薬とされるメトトレキサート (MTX) を中心とした治療戦略が確立されてきました。MTXによる治療で効果不十分な場合やMTXによる治療が副作用などのために使用できない場合にバイオ製剤を使用し疾患活動性を制御する治療戦略が取られています。
また、日本では2013年から生物学的製剤と同程度の強力な炎症抑制作用・骨破壊抑制作用を有し、経口投与が可能なヤーヌスキナーゼ (JAK) 阻害薬という新しい薬が使用できるようになり、RAの治療はさらに進化を続けています。
一方で、高齢化社会におけるRA発症年齢の高齢化の問題や、合併症を多く有する患者さんの増加が問題になっています。高齢や合併症を有する場合には治療選択に制約が生じることが多く、リスクを考慮した治療が必要になります。
当科ではそのような患者さんの治療も行っており、疾患の特性から、呼吸器内科、消化器内科、血液内科などの関連科と連携した総合的な診療も行っています。
全身性エリテマトーデス (SLE)
全身性エリテマトーデス (SLE) は20歳から40歳の女性に好発する膠原病です。自分の体に対して反応する抗体 (自己抗体) が血液検査で認められることが多く、病態に免疫の異常が関与しているといわれています。
難病情報センターの報告では日本では約6~10万人程度の患者がいるとされています。
症状は多彩で多くの臓器を障害することがあります。発熱、関節症状にくわえて皮膚症状が頻度の高い症状ですが、心臓、肺、腎臓などほぼ全身すべての臓器に障害を来す可能性がある病気です。
治療は主に免疫を抑える治療が行われます。最もよく使用されているのが副腎皮質ステロイドです。副腎皮質ステロイドは良く効きますが、長期間使用すると副作用が心配になります。副作用とは、感染症にかかりやすくなる (易感染性) 、代謝異常 (糖尿病、脂質異常症) 、骨粗しょう症などです。我々は副腎皮質ステロイド以外の免疫抑制療法を併用することによりその副作用を減らすことを心がけています。
関節症状、皮膚症状に対してヒドロキシクロロキン内服、重症例、難治例に対しては免疫抑制剤としてタクロリムス内服、シクロフォスファミド大量静注療法、ミコフェノール酸モフェチル内服、ベリムマブ自己注射療法を行っております。
2021年9月より本邦で使用可能となったアニフロルマブ (遺伝子組み換え) による治療も行っています。アニフロルマブは、I型インターフェロン受容体に結合して全身性エリテマトーデスを治療する薬です。
近年の全身性エリテマトーデスの治療は副腎皮質ステロイドをできる限り減量して中止を目指す流れになっています。当科では重症例、難治例の治療はもちろんですが、副腎皮質ステロイドの副作用をできるだけ減らす診療を行っています。
全身性強皮症 (SSc)
全身性強皮症 (SSc) は皮膚や、肺・消化管・食道・心臓など様々な臓器が徐々に硬くなる変化 (線維化) や、手足の先の血流が悪くなる変化 (末梢循環障害) を特徴とする病気です。原因は不明ですが、免疫の異常が関わっているとされています。
個々の患者さんで経過や病状は異なりますが、肘・膝より体幹側まで皮膚硬化が及ぶびまん皮膚硬化型の方は臓器病変が出現し易い傾向にあります。主な症状として、
①皮膚硬化 (皮膚が硬くなりつまみにくくなります)
②レイノー現象 (寒冷により指先の血管が収縮することで起こる血流障害と色調変化:典型的な場合は白→紫→赤)
③臓器障害 (肺に線維化が生じる間質性肺疾患や肺血管の圧が上昇する肺動脈性肺高血圧症では、動いたときに息切れや疲労感が生じます。食道運動障害により胸焼けや胸のつかえ、腸管運動障害により腹部膨満感、慢性的な便秘や吸収障害による下痢を生じます) が挙げられます。
治療としては、現時点では根本的な治療法は確立されておらず、皮膚硬化の進行、臓器障害の出現や進行を抑えることが目標となりますが、十分な効果が得られない場合もあります。
間質性肺疾患に対しては線維化の進行を抑える抗線維化薬 (ニンテダニブ) が2019年12月から全身性強皮症に伴う間質性肺疾患に対して使用できるようになりました。また、免疫異常を抑えるリツキシマブが2021年9月から保険適応となり、全身性強皮症に対する治療も進歩してきています。
日本では保険適応がまだ認定されていないものの、世界では使用実績がある各種免疫抑制薬による治療も患者さんへしっかりとした説明と同意 (インフォームド・コンセント) のもとで使用されている現状があります。当科でもそのような治療を必要な患者さんに対してはインフォームドコンセントをしっかり行った上で実施しています。
対症療法としては、レイノー現象や皮膚潰瘍に対する血管拡張薬、肺高血圧症に対する選択的肺血管拡張薬、逆流性食道炎に対する制酸薬などが挙げられます。
皮膚筋炎・多発性筋炎 (DM・PM)
皮膚筋炎・多発性筋炎 (DM・PM) は主に肩、上腕、臀部、大腿、首などの体の中心に近い部位の筋肉に炎症を起こす病気です。
皮膚症状は手指の背側や、肘、膝関節など、こすれやすい部位にガサガサとした紅斑が出現することが多く、このような特徴的な皮疹を伴う場合を皮膚筋炎、伴わない場合を多発性筋炎といいます。
筋肉の炎症に伴い筋肉痛が持続し、筋肉の破壊とともに徐々に筋力が低下します。全身倦怠感や易疲労感を伴うことが多く、時に発熱も認めます。炎症の起こる部位により、腕があげづらくなり頭が洗えなくなる、階段を上ることが難しくなる、ものをかんだり飲み込んだりするのがつらくなる、などの症状が出現します。また稀に心臓の筋肉が炎症を起こし、心不全を来すこともあります。
皮膚、筋肉以外に、肺にも炎症を来す頻度が高いことが知られており、時に致命的となります。特に、筋肉の所見がほとんどない場合に肺病変の進行が速いことが知られており、注意が必要です。
皮膚筋炎・多発性筋炎の患者では、悪性腫瘍の合併が多いことが知られており、診断時、および診断から数年は、定期的に癌の有無を評価することが望ましいと考えられています。
治療は副腎皮質ステロイドを中心に行われ、近年は免疫抑制剤を併用することが多いです。免疫抑制剤としてはメトトレキサート、タクロリムスが良く用いられ、難治性や肺病変が高度の場合にはシクロホスファミドが用いられることもあります。筋力低下が強く、難治性の場合には免疫グロブリン大量静注療法という治療を行うこともあります。
治療により筋肉の炎症が改善しても、すでに破壊された筋肉の再生には時間を要すること、および治療薬として必須である副腎皮質ステロイド自体に筋肉の分解を促進する作用もあることから、もともとの身体機能を回復するまでにある程度の期間リハビリを要することも多くなっています。
ANCA関連血管炎 (AAV)
ANCA関連血管炎 (AAV) は抗好中球細胞質抗体 (ANCA) という自己抗体ができるとともに全身の細い血管に障害を引き起こす自己免疫疾患です。難病指定センターによると、国内で確認されているANCA関連疾患の方は約19,000人といわれており国の指定難病となっています。
ANCA関連血管炎は、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の3つに分類されます。AAVの症状は多彩であり、発熱、全身倦怠感、体重減少、関節痛、皮疹、難聴、末梢神経障害などの全身症状が共通して多く見られます。
顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症では、肺や腎臓にも障害を来しやすく短期間で進行する場合もあります。また、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症では気管支喘息や副鼻腔炎が先行してみられる場合が多いです。
治療の目標は血管の炎症を消失させ (寛解導入治療) 、その状態を維持する (寛解維持治療) ことです。治療薬としては、副腎皮質ステロイドに加えて、個々の合併症などに応じてシクロフォスファミド、リツキシマブ、メトトレキサート、アザチオプリンなどの免疫抑制薬を用います。
この他にも、顕微鏡的多発血管炎と多発血管炎性肉芽腫症に対して2021年に承認されたアバコパン、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に対するメポリズマブなどによる抗体療法や免疫グロブリン大量静注療法を併せることによって、副腎皮質ステロイドはできるだけ少なく用いることを目指しています。
当科では、呼吸器内科、神経内科、腎臓内科、耳鼻科、皮膚科などの診療科と連携をとりながらANCA関連血管炎の早期診断、早期治療に努めています。
シェーグレン症候群
シェーグレン症候群は40〜60歳の女性に好発する眼、口腔の乾燥症状 (ドライアイ、ドライマウス) を主徴とする自己免疫疾患です。異常な免疫の活性化により、涙を作る涙腺、唾液を作る唾液腺に加え、関節、皮膚、肺、腎臓などに臓器障害を生じます。また関節リウマチなどの他の膠原病に合併することもあります。
治療として、ドライアイに対してはヒアルロン酸点眼薬、ドライマウスに対してはピロカルピン塩酸塩、塩酸ゼビメリンなどを使用します。重症例には副腎皮質ステロイドを使用したり、合併症に対する治療も行います。
当科では、シェーグレン症候群の診断、治療にかかわる眼科、耳鼻科などとの連携に積極的に取り組んでいます。
リウマチ性多発筋痛症
リウマチ性多発筋痛症は高齢者に多くみられる原因不明の炎症性疾患です。後頚部 (うなじ) 、肩周囲 (肩や二の腕) 、骨盤周囲 (腰回り) 、大腿 (ふともも) の痛みと朝のこわばりが特徴的な症状とされています。
男女比は1:2~3と女性にやや多く、50歳以上の人口10万人あたりの年間発症率は50人程度と報告されています。前述の症状や患者さんの年齢、血液検査での炎症反応などを参考に診断します。時に、関節リウマチとの区別が困難な場合があります。また、リウマチ性多発筋痛症の方の20%に巨細胞性動脈炎 (側頭動脈炎) の合併が見られます。
治療は、副腎皮質ステロイドを用いますが、効果が弱い患者さんや、副腎皮質ステロイドを減らすと再燃する場合、また、副腎皮質ステロイドによる副作用がある場合などは免疫抑制剤であるメトトレキサートを併用することがあります。
脊椎関節炎
脊椎関節炎は脊椎関節、胸鎖関節や仙腸関節などの体軸関節と、手指関節などの末梢関節に炎症が生じる疾患です。脊椎関節炎は強直脊椎炎、反応性関節炎、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患に伴う関節炎、ぶどう膜炎に関連する関節炎などに分類されます。
3か月以上持続し、安静で軽快せず運動で改善する炎症性腰背部痛が特徴的な症状です。そのほかの症状には手指の痛みや腫れ、こわばりや発熱、倦怠感などがあります。
血液検査では関節リウマチに特徴的なリウマチ因子や抗CCP抗体は陰性であり,炎症反応が陽性となることがあります。レントゲンやMRI、関節エコー検査で骨の変形や腱付着部の炎症がみられることがあります。
進行すると関節の柔軟性が低下し、関節が曲がりにくい、首が回りにくいなどの症状を呈します。治療としては、関節の痛みに対しては非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) やサラゾスルファピリジン、および、インフリキシマブやアダリムマブなどのTNF阻害薬を使用します。また、IL-17阻害薬のセクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブや一部のJAK阻害薬には保険適応が認められています。
早期の診断、治療の介入が必要な疾患であり、上記のような炎症性腰背部痛がみられた際にはご相談ください。
成人スティル病
成人スティル (スチル) 病 (Adult Still’s disease, ASD) は発熱、皮疹、関節炎を主徴とする全身性の炎症性疾患です。発熱は、午前中は平熱で夕方から夜にかけて39-40℃に達する高熱が特徴で、皮疹は、かゆみを伴わない移動性の淡いピンク色の皮疹 (サーモンピンク疹) が多く、発熱とともに出現し解熱すると消失するという特徴があります。
成人スティル病が発症する原因はよく分かっていません。10万人に4人程度が発症すると言われており、また、男女差はありません。15〜25歳、35〜45歳と比較的若年で発症することが知られていますが、70歳以上の年齢でも発症した報告があります。
治療は副腎皮質ステロイドが中心で、他にシクロスポリンやメトトレキサートといった免疫抑制剤や生物学的製剤のトシリズマブを併用する場合があります。
治療薬を中止できる場合もありますが、治療薬の減量中に再燃することもあることから、副作用の防止とともに経過を見ながらしっかりと治療することが重要です。